てつ様からのお問い合わせの回答です。お待たせいたしました。
質問「『成年被後見人であると法的に認定された人物が、借金の意味を理解して、借主になると意思表示することは、精神鑑定の実務上、ありえない』こととあります。全くもってその通りと思いますが、それはすなわち成年被後見人と認定された人物は、成年後見人を通じて債務を負担することが一切できないということでしょうか?高齢者が相続対策のために、賃貸住宅等を建築し、その資金を金融機関から借りるケースはよくありますが、その借主が、成年後見制度を利用するということはあり得ることだと思います。そしてやはり、成年被後見人は父親、成年後見人はその息子というケースが想定され、後継者である成年後見人の息子の連帯保証を金融機関は求めるものと考えられます。
こういうケースはあり得ると思いますが、いかがてしょうか?また、このような場合もやはり利益相反にならないと解してよいのでしょうか」
回答
(1)成年被後見人と認定された人物は、成年後見人を通じて債務を負担することが一切できません。
(2)成年被後見人になった後に、賃貸住宅等を建築し、債務を負担することは、利益相反行為に該当するので、家庭裁判所に特別代理人の選任申立てするとともに、成年被後見人の居住用不動産の処分許可の申立てをすることが必要になります。
理由
(1)成年被後見人と認定された人物は、独自では金銭の借入れなどの法律行為ができないと想定されています。遷延性意識障害(いわゆる植物状態)でない限りは、契約書にサインをすることや押印することの動作自体はできるでしょうが、その意味は理解していないと法的に区分されています(制限行為能力者)。
成年被後見人が莫大な金額がかかる契約の当事者になることは成年後見制度の想定外のことであり、そのような契約書が存在しても、裁判では有効とはならないと考えられます。よって、後見人が代わりにサインをしたとしてもそれは無権代理行為になり、被後見人の能力が復活し、追認しない限り有効にはなりません。
高齢者などが後見(保佐・補助)開始前に債務者になることは、法律上は通常のことです。その場合でも、後ほど、契約成立までの過程が問われ、契約成立に必要な意思能力が欠如していたために、契約を無効とした事例はよくあることです。
「成年後見人を
通じて債務を負担する」の意味がよくわからないこともありますが、基本的には以上のご説明になります。
(2)賃貸住宅の新築を含めて成年被後見人の財産処分に関しては、あくまでも被後見人の利益になるようにすることが求められます。また、財産の運用は安全第一で投資や投機をすることは求められていません。
相続税対策というのは、成年被後見人が相続税を支払うのではなく、息子などの相続人が将来支払うことになるだろうと思われる金額を軽減するための作戦でしょうから、その財産処分はあくまでも後見人の利益になることが前提だと思われます。
というわけで、利益相反行為になりますので、家庭裁判所への特別代理人選任申立てと成年被後見人の居住用不動産の処分許可申立て手続が必要になります。後見開始する前でしたら、父親が債務者で息子が連帯保証人もOKで、その状況をそのまま家庭裁判所へ報告するだけですが、後見開始した後に、成年被後見人の財産や権利義務の変動がある場合には、厳しくチェックすることが人権擁護制度として必要なことです。
実際にはてつ様が寄せられたような相続税対策で賃貸住宅を建築することはよく行われているようですね。債務者は父親ではなく、成年後見人名義で借金をして、担保が成年被後見人名義の不動産になることはあるようです。この場合には、被後見人がその賃貸住宅に居住したり、地代が被後見人名義の口座に徴収されるなどの被後見人自身に利益がある計画を立てる必要があります。
その上で、家庭裁判所に特別代理人選任申立てと成年被後見人の居住用不動産の処分許可申立てをして、認められる必要があります。また、推定相続人が複数いれば、相続人間のトラブルも事前に防止するために、計画に関する情報公開と同意書をもらっておいた方がよろしいかと思われます。
以上が、ご質問への回答になります。ご不明な箇所はまたお問い合わせください。ありがとうございました。
posted by 守屋行政書士事務所 at 15:30|
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